歩法(ほほう:gait)
■馬のような四足歩行の動物は4つの肢の運び方によりさまざまな特徴をもった
歩き方や走り方になります。
そのことを歩法:gaitといいます。
ここでは競走馬の基本歩法について説明します。
まず競走馬の歩法は大きく分けて次の4つに分かれます。
・常歩(なみあし:walk)
・速歩(はやあし:trot)
・駈歩(かけあし:canter)
・襲歩(しゅうほ:gallop)
それぞれの歩法での特徴を踏まえたうえでパドックや返し馬、レースなどを見て馬の個性を感じるようになると競馬観戦もさらに楽しくなるんじゃないかと思います。
※動画にはgifファイルを使用しています。
InternetExplorerなどのブラウザでfps(1秒あたりのフレーム数)がうまく表現されない場合があります。
firefoxでは正常に表示されます。
常歩(なみあし:walk)
■右後肢、右前肢、左後肢、左前肢と4本の肢が順番に運ばれる歩法です。
歩法の中で一番スピードは遅く、頭と頸を使い背中は蛇行運動をして前進します。
上下の揺れが少なく馬も騎手も疲労しにくいので長い時間続けることができる歩法です。
頭頸を上手に使う事によりバランスを保つので、頭頸の動きが重要になります。
曳き運動、乗り運動、トレッドミルやウォータートレッドミルなど、さまざまな運動でもみられる歩法で馬の健康状態をチェックする上でもとても重要な歩法です。
必ず、四肢のうち二肢以上が地面に接しています。
競馬ではおもにパドックなどで見られる歩き方です。
☆ちなみに乗馬や馬術の世界では歩幅の大きさ(歩度)によりさらに細かく分かれています。
・収縮常歩:運歩(馬の肢の運び)が短く、頭頸はアーチをえがき頭は垂直に近くなり飛節が屈曲し腰を下げ気味に前進します。
・中間常歩:収縮常歩と伸長常歩の中間の歩度です。
・伸長常歩:運歩が長く、頭を前に伸ばし後肢が前肢の蹄跡を超えゆったりとした運びで前進します。
速歩(はやあし:trot)
■右後肢と左前肢、左後肢と右前肢が対となってほぼ同時に運ばれる歩法です。
常歩よりもスピードがあり、反撞(はんどう:馬の背中から騎手に伝わる上下動)します。
重心の移動が少ないので頭頸の動きも少なくなります。
頭頸の動きが少ないのが特徴なのでハミ受けが作りやすい歩法です。
一完歩で二回、四肢が全て地面に接していない瞬間があります。
競馬ではおもに本馬場入場で返し馬に入る前の外ラチ沿いなどでよく見る歩法です。
☆また四足歩行の動物の歩き方や走り方には、肢の動きによって
・側対歩(そくたいほ):右前肢と右後肢が対となって走る歩様(ラクダ・キリン・ゾウなど)
・斜対歩(しゃたいほ):右前肢と左後肢が対となって走る歩様
がありますが、競馬の競走馬は斜対歩で歩きます。
※上下運動の少ない側対歩の走りは日本の古式馬術や道産子、モンゴルの馬などでみられる走りです。
☆ちなみに乗馬や馬術の世界では歩幅の大きさ(歩度)によりさらに細かく分かれています。
・収縮速歩:運歩(馬の肢の運び)が短く高くなり、頭頸はアーチをえがき垂直に近くなり馬の背中は硬直しがちになります。
・尋常速歩:収縮速歩と中間速歩の中間の歩度です。
・中間速歩:尋常速歩と伸長速歩の中間の歩度です。
・伸長速歩:歩幅を最大に伸ばし、頭頸を下げ前肢に重心がかかりやすくなります。
■軽速歩(けいはやあし)
速歩の馬の動きの1完歩ごとに腰を浮かして反撞を抜き、馬の負担を軽減させる乗り方です。
この乗り方をすると馬にとっても騎手にとっても負担が軽減します。
一方の斜対肢に負担がかかり疲労がかたよるので時々左右を変えてあげる必要もあります。
・右軽速歩:右前肢と左後肢が着地した時に騎手の腰が鞍に戻る軽速歩。
・左軽速歩:左前肢と右後肢が着地した時に騎手の腰が鞍に戻る軽速歩。
といいます。
本馬場入場で返し馬に入る前に外ラチ沿いなどでよく見るとほとんどの騎手がやっているので、見てみるといいでしょう。
※動画では左軽速歩になっています。
駈歩(かけあし:canter)
■常歩、速歩が左右対称の対称歩法なのに対して、駈歩は非対称歩法で右と左の駈歩があり常歩、速歩に比べてさらに速度があがる歩法です。
頭頸の動きも大きくなり、馬体の前後が上下運動する為、反撞も大きくなります。
一完歩で一回、四肢が全て地面に接していない瞬間があります。
競馬ではおもに返し馬などでみられる歩法です。
・右駈歩(または右手前の駈歩):
左後肢を踏み込んで左前肢、右後肢、最後に右前肢を踏み込む肢の運び。
・左駈歩(または左手前の駈歩):
右後肢を踏み込んで右前肢、左後肢、最後に左前肢を踏み込む肢の運び。
といいます。
☆ちなみに乗馬や馬術の世界では歩幅の大きさ(歩度)によりさらに細かく分かれています。
・収縮駈歩:頭頸はアーチをえがき頭はほぼ垂直になり、後躯の動きがゆれやすく蛇行しやすくなります。
・尋常駈歩:収縮駈歩と中間駈歩の中間の歩度です。
・中間駈歩:尋常駈歩と伸長駈歩の中間の歩度です。
・伸長駈歩:歩幅を最大に伸ばし、後躯から深く踏み込むので速く前進します。
※動画では左駈歩(または左手前の駈歩)になっています。
襲歩(しゅうほ:gallop)
■四肢が別々に着地する走りで馬の歩法の中でもっとも速く走る事ができる歩法です。
前肢の着地地点、後肢の踏み込み地点、頭頸の動き、さらに脊椎なども十分に伸ばすので歩幅(ストライド)も十分にとることができます。
一完歩で一回、四肢が全て地面に接していない瞬間があります。
競馬ではおもにレース中にみられる歩法です。
襲歩には大きく分けて、
・回転襲歩(かいてんしゅうほ):(右手前の場合)右後肢、左後肢、左前肢、右前肢の順に肢の運びが回転する運歩です。
・交叉襲歩(こうさしゅうほ):(右手前の場合)左後肢、右後肢、左前肢、右前肢の順に肢の運びが交叉する運歩です。
・ハーフバウンド:後肢を同時に蹴り出す走法(チーターやネコなどの走法)。
とがあります。
ハーフバウンド、回転襲歩はスタート時に見られる走りです。
どちらの走りも重心の移動が激しい走りのため、エネルギーの消費も多く長い距離を速く走るには向いていません。
なのでレース中競走馬は重心移動の少ない交叉襲歩で走ります。
(競馬で襲歩といえばほぼ交叉襲歩をさします。)
※動画では左手前の交叉襲歩になっています。
※襲歩についてはギャロップのページで詳しく解説します。ただいま準備中です。
完歩
■四足歩行の動物の一つの肢が着地してから次にその肢が着地するまでを一完歩といいます。
※人間では同じ肢が着地すると二歩ですが、四足歩行の動物は同じ肢が着地するまでで1完歩になります。
一完歩の距離(ストライド)と肢の回転の速さ(ピッチ)は競走馬のスピードに関係するとても重要な要素です。
また馬は一完歩に一回呼吸することも証明されています。
手前
■駈歩、襲歩の非対称歩法では、どちらかの前肢を必ず前に出して走ることになり、その前についた前肢を手前肢、もう片方を反手前肢といいます。
・右手前:右肢を前に出して走る手前。
・左手前:左肢を前に出して走る手前。
といいます。
手前肢は一本で体重を支えている瞬間があり、進行方向を決定する舵取りの役目もあるので普通は右回りでは右手前、左回りでは左手前で回ります。
(右回りを左手前、左回りを右手前で回ることを逆手前といいレースでは大きくふくれてうまく曲がれません)
片方の手前で走り続けていると、疲労が偏るため競走馬はレース中に何回か手前を変えます。
基本的には馬が自分で手前を変えますが、見せムチや肩ムチなど騎手の扶助によって意図的に手前を変えさせることもあります。
そして人間にも右利きや左利きがいるように、馬でも右手前が得意な馬と左手前が得意な馬などがいます。
また手前を変える瞬間は馬の歩法のリズムが一瞬変わるので、騎手がバランスを崩したり、事故につながる可能性もあります。
最後の直線で手前を変えたとたんに伸びる馬や、肢に問題がある馬などはどちらかの回りが苦手だったりするので、よく観察するとその馬の特徴もわかって面白いと思います。
実際の襲歩では肢の回転も速いのでわかりにくいですが、最後の直線はどっち手前なのかなどは見ておくといいでしょう。
※手前については馬を見るうえでとても重要になってくるので、自分で四つん這いになって走ってみると理解しやすいのでおすすめです。
右回りだと右手前でないととても回りにくいです(笑)
※動画では右手前になっています。